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東京地方裁判所 昭和29年(わ)648号 判決 1954年10月26日

主文

被告人は無罪

理由

本件公訴事実は「被告人は韓国人であるが、昭和二十七年十月二十八日東京都大田区役所に於いて外国人登録法附則第八項に基く自己の外国人登録証明書交付申請を為すに際し氏名が李鶴承、生年月日が明治三十九年(西暦千九百六年)四月二日、本籍が韓国咸鏡南道定平郡新上面伝岩里七十六番地とあるに拘らず、その氏名を朴性伯、生年月日を西暦千九百年五月十五日、本籍を韓国慶尚南道咸安郡伽面春谷里と夫々甲竜達をして登録申請書に虚偽の記入を当該係員に提出せしめ以て虚偽の申請をしたものである」と謂うのであるが証人日高守衛の証人尋問調書並に被告人の当公廷に於ける供述を綜合すると被告人は昭和二十五年八月頃韓国から正規の手続を経ず我が国に入国し、安快三その他の者の手を経て外国人である朴性伯の外国人登録証明書に被告人の写真を擅に貼り変へて偽造した被告人の外国人登録証明書を入手し、これを所持して居つたことを認めることが出来る。外国人登録法附則第八項によつて同法第十一条第二項の登録証明書の交付申請を課せられた者は真正に作成された登録証明書を有する外国人であつて、被告人の如き密入国者で、且他人の外国人登録証明書をもとにした所謂偽造の外国人登録証明書を所持していた者には同法附則第八項及び同法第十一条第二項は適用がないものと謂はなければならない。

而して被告人が右公訴事実に記載したような所為をなしたことは甲竜達の検事に対する供述調書、被告人の司法警察員に対する第三回供述調書並に被告人の検事に対する供述調書によつてこれを認めることが出来るけれども、前述のように被告人のように偽造に係る外国人登録証明書を所持している外国人に対しては、外国人登録法附則第八項及び同法第十一条第二項は適用しないものと認められるので、被告人の前段認定の一連の所為が他の法令に該当するか否かは論外であるが、右法条に該当するものとして処罰することは出来ない。即ち被告人の本件公訴事実は罪とならないものと謂わねばならない。よつて被告人に対し刑事訴訟法第三百三十六条を適用して、主文で無罪の言渡をする次第である。

(裁判官 秋山秀男)

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